2015年11月16日

て思っても

 歩はクスッと笑ってから、健人の髪の毛を撫でる。その手はとても優しくて、逆に悲しくなった。
「親友だと思ってるジンにも、俺は本音を言わない。でも、健人にはこうして言える。家のことを話したのは、健人が初めてだよ」
 こんなに苦しい過去を誰にも言わず、閉じ込めていたpretty renew 雅蘭歩を見ていると、健人が苦しくなった。歩はそれを苦しいことだと分かっていないのだろう。分かっていないから、こうして笑えるのだ。これほど悲しいことは無く、悲痛な笑みに見えた。
 健人は歩に手を伸ばし、少し大きい背中に手を回した。抱きしめるつもりが、抱きついたようになってしまい、ゆっくりと背中を撫でられた。
「どうしたの、健人。ダイタンだね」
「……うるさい。お前、ちょっと黙って俺に抱きしめられてろ」
「俺達、可哀想だね」
 健人にしか聞こえない、小さい声だった。歩は顔を健人の肩口に埋めて、ゆっくりと息を吐きだした。自分より小さい体なのに、力強く抱きしめられると支えられているようだった。可哀想と言う言葉は嫌いだったけれど、それを二人で分かち合えるなら、それでも良かった。
「……俺達は、可哀想なんかじゃない」
「え……?」
「もう、可哀想じゃない。可哀想なのは俺達の過去だ。俺だって、自分の気持ちを誰かに喋ったことは無い。お前だけだ。俺はこれからも、誰かに喋るつもりもないし、可哀想なんて言わせない。可哀想だった過去は、今日でもう終わりにすればいいじゃねぇか」
 ひと際強く、背中を抱きしめられて、歩は笑った。全てを吐きだしてすっきりしたのと、可哀想だった過去とはもう決別するときが来たからだ。まさか、健人に救われるなん居なかった。それは健人も一緒で、歩に救われるなんて考えても無かった。二人は少し、抱きしめあったまま、笑っていた。
「過去は消せないけど、塗りつぶすことはできるからね。これから、塗りつぶして行けばいいよね」
「……そうだな」
「難しいことだけど、健人となら、何でか知らないけど出来る気がするや」
 歩は健人を引きはがして、顔を覗きこんだ。まっすぐ歩を見つめている健人の目を見て、笑みを向ける。大嫌いだったこのまっすぐな目も、今は嫌いではない。嫌いや好きと言う感情は、曖昧でpretty renew 雅蘭変化しやすい。けれども、今は、自信を持って言える。
「好きだよ、健人のこと」
 三度目の好きは、恋だった。



Posted by 至上勵合 at 16:17│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。