2016年03月23日

手応えがある



 渡邊教授が、たまたま、早苗の母校の系列である医大の出身だったことは、幸運だった。そうでなければ、これほど簡単に会うことはできなか韓國 泡菜ったに違いない。
 しばらく、共通の知人である医者たちの噂話《うわさばなし》をした後、早苗は本題に入った。
「実は、今日うかがったのは、先生が執刀なさったご遺体のことで」
「うん。そうだったね。赤松さんと言ったかな?」
 心なしか、表情が曇ったような気がする。
「北島さんは、赤松さんとは、どういうご関係なの?」
「直接の面識は、ありませんでした。ただ、私の知り合いがアマゾン探検に参加したとき、赤松さんとご一緒でした」
 渡邊教授は、灰皿で煙草をにじり消し、肺に蓄えていた最後の紫煙を吐き出した。それとともに、笑顔も完全に消えてしまった。
「……それで、聞きたいと泡菜 食譜いうのは、どういうこと?」
「赤松さんのご遺体を解剖されたときに、何か不審なことがなかったかどうか、教えていただけないでしょうか?」
 早苗は、かすかな興奮を感じていた。渡邊教授の態度には、はっきりとした。何かを知っているのだ。おそらく、遺体を解剖したときに、何か異状を発見したに違いない。
「そういうことは、いくら医局の紹介でも、軽々しく口にするわけにはいきませんね」
 渡邊教授は、二本目の煙草に卓上ライターで火を付けた。言葉とは裏腹に、そのあやふやな手つきは、心中に迷いがあることを示している。
「もちろん、さしつかえない範囲でけっこうです。プライバシーの問題は、重々承知しておりますので」
「しかしね……」
 渡邊教授は、煙草に意識を集中しているかのように、目を細めた。早苗は、教授が話し出すのを待った。
「まあ、それは、異常といえば異常な遺体でしたよ。トラに咬《か》まれたんだから。赤松さんには、全身に数ヶ所、骨まで達するひどい咬傷《こうしよう》がありました。それで、死因は、外傷による二次性ショックで、心不全を起こしたものと判断しました。だが、これは、救急病院の管理を責めるわけにはいかない。むしろ、あれだけの重傷を負いながら二日間も保った方が、奇跡に近いんだ」
 違う、と早苗は思った。渡邊教救世軍卜維廉中學授が急に饒舌《じようぜつ》になったのは、故意に話をはぐらかそうとしているしるしだ。教授は、何かもっと、別のことを発見したに違いない。
 だが、いったい何を見つけたのか。  


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2016年03月16日

何だったのだ



「だから、もしかすると、その患者さんっていう人も、何かの理由で罪の意識に苛《さいな》まれてるのかもしれないわね。まあ、その辺は、あんたの水腫方が専門家だけど」
 いいかげんな作り話で罪の意識を感じているのは、早苗の方だった。晶子に礼を言って電話を切ってから、彼女は考え込んだ。
 カプランが、この言葉で示そうとしたものは、いったいろうか。
 頭髪が蛇というイメージは、医学的に、どう解釈できるだろう。
 無意識の罪悪感から、復讐を恐れる気持ちが働く。怒り、恐怖などが引き金となって、交感神経の緊張で立毛筋が収縮し、体毛が逆立つ。古語の『髪の毛太る』というのも、これに近い状態を表しているのかもしれない。
 一方で、ギリシャ彫刻のメドゥーサなどの姿から早苗が連想するのは、人間の頭の中でとぐろを巻いていた危険な蛇、すなわち妄想、激怒、憎悪、攻撃への住宅設計欲求などが、今にも外に現れ出ようとする恐るべき瞬間だった。
 早苗は再び、迷信じみた恐怖にとらわれた。高梨は、天使の羽音と囀りを聞いていた。彼をはるばるアマゾンから追ってきたのは、本当は、復讐の女神だったのではないのだろうか。
 もう一度、カプランの手記に戻る。すると、「ついに "Eumenides" の正体を発見した。"Pseudopacificus cacajaoi" と命名する」という意味の文章にぶつかった。"Pseudopacificus cacajaoi" というのも、ギリシャ語かラテン語らしい。英和辞典を引いても、似た言葉さえ載っていなかった。だが、もう一度晶子に電話をかけるのは、さすがに気が引けた。
 ふと、インスピレーションが閃《ひらめ》いた。これは、何かの生物に付与された学名なのではないだろうか。
 早苗の生物学の知識は、高梨より少ないくらいだったが、それでも、二名法の学名の前半部分は属名で、後ろが種名だということくらいは知っていた。
 パソコンを起動し、インターネットで検索をかけて、生物学のデータベースを探す。使用したキーワードは、"scientific name" や "biology" "zoology" などである。慣れない分野なので、なかなか見つからなかったが、ようやく、Biosis 社の生物の学名専用の検索エンジンを捜し当てた。
 スペルを間違わないよう慎重に、"Pseudopacificus cacajaoi" と入力し、検索してみるが、そういう生物は存在しないという回答だった。念のために、唯一覚えている学名である、"Lynx lynx" で検索してみると、ちゃんと、オオヤマネコらしき説明が出てNespressoきた。だとすれば、"Pseudopacificus cacajaoi" なるものは、もしカプランの妄想でないとするなら、彼が発見した新種の生き物で、まだその名前は学会には登録されていないのかもしれない。生物種の宝庫であるアマゾンでは、多くの生物が絶滅する一方で、今日でも新種が次々と発見されているのだ。  


Posted by 至上勵合 at 11:30Comments(0)