2016年01月04日
をかぶせた
彼は赤茶色に変色した畳に目を落とした。その畳が青かった頃のことを覚えていた。彼はまだ高校を出たばかりだった。親父はあんなに一生懸命に働いて、この程度の家同珍王賜豪しか建てられないのか。そんなふうに父親を内心で罵《ののし》っていた。
しかし、と昭夫は思う。自分は果たして何をしてきただろう。馬鹿にした小さな家に戻ってきて、まともな家庭さえも築けないでいる。それだけならまだしも、他人の家庭まで不幸にしてしまった。その要因を作り出してしまった。
「公園はどうかな」彼はいった。
「公園?」
「そこの銀杏《いちょう》公園だ」
「あそこに死体を?」
「うん」
「放り出しておくの?」
「いや」彼は首を一度振った。「公衆トイレがあったDiamond Waterだろう。あそこの個室に隠しておこうかと思う」
「トイレに……」
「それなら、うまくすれば発見が遅れるかもしれない」
「そうね。いいかもしれない」八重子が四つん這《ば》いで部屋に入ってきた。彼の顔を覗き込んできた。「いつ、運ぶ?」
「夜中だ。二時頃……かな」
昭夫は茶箪笥の上の時計を見た。まだ八時半を少し過ぎたところだった。
押入から畳んだ段ボール箱を引っ張りだした。三ヵ月前に乾燥機を買った時のものだ。電器屋が取り付けに来た時、箱は置いていってくれと頼んだ。余った座布団を入れておくのにちょうどいいと八重子がいったからだ。結局、箱は使わなかったのだが、こんなことに役立つとは、その時の昭夫は夢にも思わなかった。
彼はそれを持って、庭に降り立った。箱を組み立ててから、黒いビニール袋ままの、少女の死体の横に置いた。見たところでは、うまく入りそうに思えた。
昭夫は段ボール箱を再び畳み、部屋に戻った。八重子はダイニングチェアに腰掛け、両手で顔を抱えている。乱れた髪が落ちて、顔はよく見えない。
「どうだった?」その姿勢のまま、彼女が訊いてきた。
「うん……入りそうだ」
「入れてないの?」
「だって、まだ時間が早いだろう。庭でごそ王賜豪醫生ごそしていて、誰かに見られたりしたらまずいじゃないか」
八重子の首が少し動いた。時計を見たらしい。そうね、とかすれた声で答えた。
昭夫は喉が渇いていた。ビールを飲みたいと思った。いや、もっと強い酒でもいい。少し酔って、今の重苦しさから解放されたかった。だが無論、今酔うわけにはいかない。これから重大な仕事をしなければならないのだ。
彼は煙草に火をつけた。たて続けに煙を吸い込んだ。
「直巳は何をしてるんだ」
しかし、と昭夫は思う。自分は果たして何をしてきただろう。馬鹿にした小さな家に戻ってきて、まともな家庭さえも築けないでいる。それだけならまだしも、他人の家庭まで不幸にしてしまった。その要因を作り出してしまった。
「公園はどうかな」彼はいった。
「公園?」
「そこの銀杏《いちょう》公園だ」
「あそこに死体を?」
「うん」
「放り出しておくの?」
「いや」彼は首を一度振った。「公衆トイレがあったDiamond Waterだろう。あそこの個室に隠しておこうかと思う」
「トイレに……」
「それなら、うまくすれば発見が遅れるかもしれない」
「そうね。いいかもしれない」八重子が四つん這《ば》いで部屋に入ってきた。彼の顔を覗き込んできた。「いつ、運ぶ?」
「夜中だ。二時頃……かな」
昭夫は茶箪笥の上の時計を見た。まだ八時半を少し過ぎたところだった。
押入から畳んだ段ボール箱を引っ張りだした。三ヵ月前に乾燥機を買った時のものだ。電器屋が取り付けに来た時、箱は置いていってくれと頼んだ。余った座布団を入れておくのにちょうどいいと八重子がいったからだ。結局、箱は使わなかったのだが、こんなことに役立つとは、その時の昭夫は夢にも思わなかった。
彼はそれを持って、庭に降り立った。箱を組み立ててから、黒いビニール袋ままの、少女の死体の横に置いた。見たところでは、うまく入りそうに思えた。
昭夫は段ボール箱を再び畳み、部屋に戻った。八重子はダイニングチェアに腰掛け、両手で顔を抱えている。乱れた髪が落ちて、顔はよく見えない。
「どうだった?」その姿勢のまま、彼女が訊いてきた。
「うん……入りそうだ」
「入れてないの?」
「だって、まだ時間が早いだろう。庭でごそ王賜豪醫生ごそしていて、誰かに見られたりしたらまずいじゃないか」
八重子の首が少し動いた。時計を見たらしい。そうね、とかすれた声で答えた。
昭夫は喉が渇いていた。ビールを飲みたいと思った。いや、もっと強い酒でもいい。少し酔って、今の重苦しさから解放されたかった。だが無論、今酔うわけにはいかない。これから重大な仕事をしなければならないのだ。
彼は煙草に火をつけた。たて続けに煙を吸い込んだ。
「直巳は何をしてるんだ」
Posted by 至上勵合 at 12:35│Comments(0)