2016年02月23日
そう言うと
トラックゲートまで来たとき、寺山さーんと呼ぶ声がした。「事務のみっちゃんや」と山岸が振り返った。
「朝、寄ってって昨日言ったでしょ」と美智代は駆け寄り息せきってとぎれとぎれにそう言うと、
「はい」と手提げの小さなmiris spa hk紙袋を差し出した。
寺山は「ん?」と怪訝そうに袋を受け取り、「あー」とやっと思い出し「悪いね、ありがとう」と困ったような笑顔を浮かべた。
「何それ?」と山岸がのぞき込むと「あんた関係ないの」と美智代が押しのけた。
「あ、差別や」
「あんたは家に帰ればちゃんとご飯あるでしょ。お母さんいるんだから」
「えー、そうなの。弁当か。いいな、それって」
「ばか」と美智代は頬を膨らませ、横にらみ、その目を寺山に向け、
「早く食べてね」と言い、手でトラックの銅鑼灣按摩進行を制止しながら急ぎ足で事務所に戻っていった。
「美智代さん寺山さんに気があるんだ」と山岸が冷やかすように笑った。
「そんなんじゃないよ。いいから行こう。店行くんだろ」
「なんだそりゃ。変なひとだねえ、あんたも」と山岸は東京弁でこたえた。
喫茶店とは名ばかりで、店構えからして町に馴染みすぎている。コンクリートのビルの壁面に薄汚れた紅白のストライプのテントがポツンとあり、
「喫茶アイランド」と黒いガラスドアに白抜いている。
山岸の後に付いて寺山はそのドアをくぐった。ドアの向こうは滑り止めだけの打ちっ放しの階段で、2階に上がると殺風景な壁をくりぬいたようにまた黒いガラスドア。鉄の扉を差し替えただけのお手軽な外装だ。カランと音をさせたドアの向こうは薄明るく、弱々しい外光が北側の窓から射し込みカウンターに落ちている。そのカウンターの奥の方に30くらいの小柄な女が座っていて、
カウンタの中には谷啓が悪擦れしたような50絡みの男がタオルを手に立っていた。
「いらっしゃい」とその男はやけに明るい声で顔を向けた。声までタニケイに似ている。
山岸はカウンタの端に座り、寺山にも隣に座るDiamond水機ようにとうながした。建物の形のまま矩形になったスペースにボックス席があり、籐の衝立に仕切られたその席に、それらしき女達が3、4人が座っていた。
山岸はカウンタの男に「フェイは?」と訊いた。男は首をすくめ親指で店の奥を指した。
Posted by 至上勵合 at 11:50│Comments(0)